フォークリフトの安全運転コラム

vol.1|フォークリフトから飛び降りて死亡

文 / 丸山 利明 物流技術研究会
大手運送会社に入社後、主に重量物取扱作業に従事する傍ら、社内作業指導員制度設立の一役を担う。
全日本トラックドライバーコンテスト準優勝。全国フォークリフト運転競技大会優勝。
平成15年、現タカラ物流システム(株)入社、平成22年に常務執行役員。
飲料系物流会社と物流技術研究会を設立し現場指導に努力。
陸上貨物運送事業労働災害防止協会(陸災防)専任講師、自動車事故対策機構(NASVA)専任講師などを務める。
現在、(株)TM安全企画を設立し活動中。

便利さには危険もひそむ

フォークリフトは物流の現場で使用される機器のなかでも、もっとも身近で、便利な機器のひとつです。
その反面、フォークリフトによる労働災害の死傷者数は年間約1,900人と長年横ばい傾向にあり危険な状況が続いています。
そこで本シリーズでは、フォークリフトによる災害事例や、安全対策の取り組み例を参照しながら、フォークリフトの安全について考えていきたいと思います。

安易な飛び降りが死亡災害に

リフト作業者Aさんは、倉庫内で出庫作業を行っていました。正午になり休憩のチャイムを聞いたAさんは、作業の途中でしたが早く休憩に入ろうと思い、乗っていたリーチフォークリフトの停車エリアに、バック走行で急いで向かいました。
停車位置は大きな柱の前に白線で明示してあります。Aさんは勢いよくその白線内に入り、右足から飛び降りました。その瞬間、Aさんは乗っていたリフトと柱との間に挟まれ、内臓破裂で亡くなってしまいました。

図表1原因や背景の整理

図表2赤丸内がデッドマンブレーキのペダル

何が問題だったのか

労働災害ですから、当然原因究明と対策づくりが必要です。この原因究明においては、「危険な行動」と「危険な状態」に分けて整理すること(図表1)が有効です。

〈危険な行動〉
―①フォークリフトから飛び降りた
フォークリフトの飛び降りによる災害は多く、とても危険な行動です。特にリーチ式についてはその構造上注意が必要です。
リーチ式は「デッドマンブレーキ」を採用していて(図表2)、左足で足元のペダルを踏めばブレーキが解除され、離せばブレーキが効く仕組みになっています。
この事例では、バック走行しているAさんが右足から飛び降りようとした時、左足はまだデッドマンブレーキを踏んでいたため、ブレーキが効かない状態にあったと推測されます。リーチフォークリフトではあってはならない危険な行動だったのです。
―②スピードの出し過ぎ
走行スピードの出し過ぎも危険な行動で、様々な事故を引き起こす原因となっています。Aさんは早く休憩したい気持ちがあったため、停車位置へ向ってスピードを出し過ぎたのが危険な行動でした。
〈危険な状態〉
―①停車方向が決まっていない
この職場ではフォークリフトの停車位置が決められていましたが、停車方向までは決められていなかったようです。Aさんはバックで停車しようとしましたが、仮に「前進方向で停める」という決まりがあれば、この災害はなかったかも知れません。
―②安全教育・安全風土の欠如
あってはならない行動やルールが決められていないことから、この職場ではフォークリフト作業者の安全教育が不充分な状態だったと思われます。
さらにその背景として、職場での安全風土自体が欠如していた様子もうかがえます。「スピードを出し過ぎる」「車両から飛び降りる」といった行動が、今回初めてのこととは思えません。労働災害が多発する職場では少なからず、安全風土の問題があるように思えます。

こうした災害を防ぐには

では事例のような痛ましい災害は、どうしたら防げるのでしょうか。

フォークリフトを理解する教育

リーチフォークリフトの構造・仕組みを理解していれば、デッドマンブレーキを踏んでいない「右足」から降りるのは、危険な行動だと予測できたはずです。構造上の特性はリフト作業者として理解しておくべきでしょう。
そのためにもフォークリフトの安全教育が不可欠です。教育といっても座学が主で、実技教育まで手が回らない現場も多いと思います。しかしこうした事例を教訓とし、できればリフトからの降車手順も含めた実技教育を行うことが望ましいでしょう。スピードの出し過ぎについても、教育で制限速度遵守を求めることは当然です。ただし確実な実行は容易でないのも確かで、適正速度を本当に徹底するには、機械装置の取り付けなど物理的な方法が効果的かも知れません。

管理者の積極的な働きかけ

停車位値に停める向きが決められていない、安全教育が不十分など「危険な状態」が続くのは、「危険への感受性が欠如した」状態です。
それを解決してくれるのが、「職場の安全風土」です。安全風土を作り上げるのは、管理者の安全意識。ルールを作り、守られなければつど口うるさく注意する。職場のミーティングでも、繰り返し訴え続けることです。危険な行動・状態が放置されるのは、管理の問題です。「労働災害は管理者の責任」と言っても過言ではありません。
現実の問題として、現場は「面倒くさい」ことが嫌いなもの。だからこそ、面倒くさいことを当たり前にできるようにするため、管理者自らが面倒なことに積極的に参加する必要があるのです。

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