フォークリフトの安全運転コラム
vol.6|安全活動のポイントは人づくりにあり
- 文 / 丸山 利明 物流技術研究会
- 大手運送会社に入社後、主に重量物取扱作業に従事する傍ら、社内作業指導員制度設立の一役を担う。
全日本トラックドライバーコンテスト準優勝。全国フォークリフト運転競技大会優勝。
平成15年、現タカラ物流システム(株)入社、平成22年に常務執行役員。
飲料系物流会社と物流技術研究会を設立し現場指導に努力。
陸上貨物運送事業労働災害防止協会(陸災防)専任講師、自動車事故対策機構(NASVA)専任講師などを務める。
現在、(株)TM安全企画を設立し活動中。
フォークリフトの安全機能
フォークリフトには様々な安全機能が装備されています。運転席から離れると作動しない誤作動防止機能や、旋回や高揚高で転倒しにくい機能・構造、荷崩れを防止する自動的な作業機制御など、工夫を凝らして安全に配慮され作られています。
このことはリフトマンも良く知っていて、よほど古いものでない限り機械そのものの品質や安全性は確保されています。
重傷化する減らない事故
それでも毎年フォークリフトによる事故は減らず、2019年の労働災害は増えています。それだけ作業現場には多くの危険がまだ潜んでいるのだと言えるでしょう(図表1)。
またフォークリフト災害は、死亡など重傷化するケースが多いと見られます。さらに統計では、休業3日以内の災害や物損は表れてこないため、隠れた事故が膨大にあることは容易に考えられます。
図表1減らないフォークリフト災害
物損と作業現場の不安
私が見てきた限り、荷物の落下などの物損は山ほどあります。特にリフトマンにとって、高揚高での荷役作業は怖い。路面が水平でない無理な段積みをさせられる現場もあるため、内心は不安でたまらないものです。またフォークリフトと周辺歩行者が交錯する現場では、リフトマンは荷物に集中できません。
多くの企業では安全活動に取り組んでいるものの、9割以上で「フォークリフト作業に不安がある」と回答したアンケート結果もあり、現場作業者は日常的に危険の心配を抱えていると言えます。
安全管理者のやる気と悩み
このように危険回避の要は現場にあります。中でも現場をサポートする安全管理者の「やる気ある行動」は、危険回避に直結します。
安全管理者は法令上、常時50人以上が働く事業場に置かれていますが、やる気があっても日常業務に忙殺され安全管理がおろそかになることもあります。業績優先の事業場では、もはや安全業務へ目を向ける余裕すらありません。業務を一人で抱え込まず、現場のモチベーションを高めて現場解決力を向上させることが何より大切です。
さらに企業としても、現場と本音で向き合える情熱ある人材を安全管理者として選任し、安全業務に支障のない評価など働きやすい環境を整える努力が必要です。
安全が企業評価の指標に
企業が努力を要する理由は他にもあります。安全管理が営業取引に影響を及ぼすといわれてるからです。中央労働災害防止協会の報告では、受注企業の約6割が発注企業から安全衛生の取り組みを求められており、取引で安全衛生を重視する傾向が鮮明になっています。
ひとたび事故が起きれば、営業的損失は大きいと言えます。反面、「安全衛生管理の確かな企業は品質や納期なども信用できる」とされており、安全衛生管理を営業で有利に活用できる可能性もあります。最近では、安全衛生への取り組みをホームページなどで積極的に開示している企業も増えています(図表2)。
図表2現場の安全が企業評価に
形骸化しないための人づくり
安全への道筋は企業トップが示し、現場が原動力となって進む。これが理想的な安全活動の姿です。しかしこれがなかなか難しい。主体的に行動する人がおらず、活動の途中で形骸化してしまうからです。安全活動は「やらされる」ものではなく、「自らやる」ものです。
活動そのものが実践的でなく役立たない時に形骸化は起きます。形骸化を避けるには、より現場に合わせ指導できる管理者や、実技指導できるインストラクターの養成が不可欠です。
指導者の数だけ安全は保たれ継続します。安全はまさにこうした「人をつくる」ことに外なりません。社内制度や仕組み、安全支援機器などで環境を整えることは、人づくりに大きな効果をもたらします。
安全が当たり前の毎日をめざす
危険な行動をするのも、させるのも人。環境や仕組みを作り出すのも人。いわば人は危険をコントロールする力の源です。
安全に積極的な人が定着すればそれが風土となり、安全行動は日常的な当たり前の行動となります。しかし、風土となり安全行動が当たり前となるまでには時間を要します。すぐに成果へ結びつかないかも知れません。
それでも途中で諦めることなく、地道に続けて行くことこそが、唯一の近道であると確信しています。
今日の仕事を終えて元気に帰る。この当たり前の毎日が、私たちのめざすべき安全と考えています。